ひとりごと日記

ワタナベによる音楽関係のひとりごと。適当です。

アルバム感想 : yonige「健全な社会」

yonige「健全な社会」

 

 

健全な社会

yonigeのメジャー2ndアルバム。

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Kenzen Na Shakai

Kenzen Na Shakai

 

正直、yonigeのアルバムをまともに聞いたのは初めて。「アボカド」「さよならプリズナー」といった代表曲は好きだけど、特に掘り下げて聞いたことはなかった。2年前の「笑おう」以降の曲は全く知らない。そんな中、ふとapple musicで#1「11月24日」を聞いて何故かものすごく引き込まれてしまい、アルバム全通しで聞いた。

 

 

ビビった。「yonige」ってこんなバンドだったか?

 

 

1曲目「11月24日」

 

yonigeのイメージは、スイッチをガムテで固定したレスポールをガッツのある歪みでかき鳴らすような、ド直球ギターロックのイメージが強かった。そして、バンド演奏というよりは、歌を基本にしたようなサウンド、弾き語りから組み立てたようなシンガーソングライター的な曲が多かったはず。

 

この曲をアルバムの1曲目にもってくることで大きくそのイメージをぶっ壊す。イントロから練りに練られたバンドアンサンブル。奥行きのある音場。「Aメロ、Bメロ、間奏、Aメロの後、一度しかないサビ、間奏、Aメロ」という、流れるような捉えどころのない曲構成。抑揚のない力のない歌メロ。そして恐ろしく内向的な歌詞。この曲中、歌詞の主人公は何もしていない。15時半に目覚めぼんやりとした暗い考え事をしただけで、一歩も家から出ない。というか、そもそも歌詞自体あまり聞き取れないミックスになっている。

 

サビの繰り返しやキャッチーなメロとは正反対のような曲だが、単純に暗い曲として片づけられない、深みのある曲。こんな曲を1曲目に持ってくるのは、yonige攻めてるなあと感じた。

 

 

いや、攻めているのはアルバム全体であった。

聴き進めていくと、この後の9曲、全部この雰囲気なのである。

 

 

 3曲目「ここじゃない場所」からインストをはさみ5曲目「往生際」への流れは、曲間をインストでつないだコンセプトアルバム的展開。極限までそぎ落とされたバンドアンサンブルで、アルバム中で一番の緊張がはしる場面。

後半にかけては、前半の焦燥感は薄れ、もう少しリラックスしたような曲が並ぶ。いや、リラックスというか、前半の苦悩から何かを悟ったに近いか。

 

もはや環境音のような熱のない冷めきった演奏。リフも、曲構成も、コードも、リズムも、シンプルかつ難解な方向へと振り切っている。メロにはあまり抑揚をつけないことで演奏の難解さをやわらげて、サウンドのバランスをとっているような印象。とにかく最低限の骨組みだけで曲を成り立たせている。また、はじめてギターのサポメンが製作段階から参加しているようで、3ピースバンドながら、早い段階からツインギターアレンジを試していたのだと思われる。そのyonigeツインギターのアンサンブルが超素晴らしい。

 

歌詞にはアクティブさが皆無。何かをしようとかしたいとか、だったらとか、希望や行動、欲望といったものがない。何かを提案したり、主張することもない。「あの人」「あなた」「君」に関すること、もはや抽象的過ぎてよくわかんない事を、内向的に、日常とともに綴る。

 

 

 

このアルバムの発売日は、2020年5月20日。もともとは4月8日が発売日となるところ、4月29日に延期、その後緊急事態宣言に従って再延期となり、5月20日となったらしい。

おそらく日本がコロナ禍に巻き込まれる以前にアルバムは完成していたはずだが、なぜかコロナ禍の雰囲気がどこかに漂っている作品のように感じた。おそらく僕がこのアルバムに惹かれたのはそこである。自由が奪われた日常に、親しい人に会えない日々に、過去のことや自分の内面を掘り下げて掘り下げて、不安が増すばかりで結局どこにも着地しない、恐ろしく何もない日々。

 

こちら、公式インタビュー。

オフィシャルインタビュー公開! | yonige

今回は、特別何もないアルバムですね。ドラマティックなことがだんだん興味なくなってきて、「何にもない」ということをどうやって書くかっていう方向に変わってきています。

 

「何にもない」

すごいテーマだと思う。コロナ禍でなければここまで響くことはなかったと思う。

しかし逆に、コロナ禍の最中やコロナ禍の直後にはなかなか描くことができないテーマであるとも思う。悲しみや恐怖、不安の大きい世の中でメジャーの音楽に求められるのは、温かみである。当たり前の日常を幸せと感じ、感謝することを描く音楽であると思うのだ。

 

 

このアルバムは、非常に不思議なタイミングに世に出てしまった。と思う。

万人には響かないと思うが、刺さる人にはものすごく刺さると思うので、ぜひ聴いてください。今、聴いてください!